冬の日記

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1

 クリスマスイブに急遽、25日にクリスマスパーティーをする約束を友達とした。当日、次の日に部活の大会を控える私の都合に合わせてもらい、2時に駅に集合して、まずは近くのドンキにクリスマスパーティーグッズを買いに行った。クリスマスのコーナーを探したが、お目当てのトナカイのカチューシャはなく、仕方なく300円のサンタの帽子を人数分の3つ買った。それから、いつも以上に出現するカップルを横目に、口先だけの文句を言い合いながら街を闊歩し、バスに乗って友達の家に向かった。友達の家でウーバーイーツを頼み、チーズダッカルビやフライドポテト、ジュース、ピザをテーブルに並べ、照明を暗くした部屋をキャンドルで照らす。「ばえじゃん!」と口々に言いながら、慣れない手つきで、テーブルに並べた食べ物や、乾杯するストーリーを撮り、クリスマスツリーの前で交代で写真を撮影しあった。撮影がひと段落してもう一度乾杯をし、固まってしまったチーズを一口分食べるために「端っこおさえてて」と友達のフォークも使ってチーズを取り分ける。暗くて食べづらいので照明を付け、キャンドルの火を吹いた。ある人は鶏肉と伸びないチーズを、ある人はしなしなのポテトを、ある人はぬるいピザを頬張る。美味しいと顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

2

 私は吹奏楽部に所属しており、次の日に控える大会とは、アンサンブルコンテストのことだった。アンサンブルとは数人で合奏をするもので、私達はフルート、クラリネットファゴット木管三重奏でエントリーした。アンサンブルコンテストに出るのは今回で3回目。一年に一回しかないので、これまで吹奏楽に捧げてきた5年間で出なかった年の方が少ないほど、何度も出場していた。しかし金賞は取れたことがなく、ずっと銀賞だった。最後ということもあって、今年はかなり色々なものを殺してそれに注ぎ込んだが、結果はいつもと変わらず銀賞。コロナの関係でオンラインで発表された成績を、帰ってすぐに寝転んだ夕方のベットでしばらく眺めた。

 

 

翌朝、腫れた瞼に視界を狭められながら、学校に向かうためにバスに乗った。瞼を保冷剤で冷やしながら10分ほどバスに揺られ、電車に乗り換えるために駅の近くのバス停で降りる。だらだらと準備をしていたので、もう完全に遅刻確定の時間。田舎の街が動き始めている。間に合うことを諦めた足取りで、またぼやけだす視界を擦り、冬の暖かい日差しを浴びながら駅へと向かった。

買った切符を駅員さんに見せ、改札(もどき)を通って、ホームのベンチに座った。20分以上ある待ち時間。何を考えるでもなく、冬の暖かい日差しに体を温められながら、ただ座った。空には一面の青が広がっていて、他に表しようのないほどの快晴だった。コンクリートは所々影に邪魔されながら、光を吸収している。私は縮めていた足を前へ投げ出し、その光の主に顔を向けた。いつもより何十分か遅いだけなのに、シャボン玉がいつまでも割れずに漂いそうなほど穏やかな空気がそこには在った。

駅のアナウンスが鳴って、目を擦ってベンチから腰を上げる。温められた背中に電車が連れてきた風が吹き抜け、そこに在った空気が割れた。

 



 

 


3

 年が明け、休みが始まると、また友達と街に繰り出した。ニーハイにミニスカート。絶対領域に鳥肌を立たせながら、友達が予約したというカフェに喋りながら向かう。開店時間の12時よりも早く着き、店の近くで時間を潰しながら写真を撮った。12時になって、アットホームな雰囲気の綺麗なカフェに足を踏み入れ、それぞれ、パスタやお肉を注文する。前菜とスープも付いており、それらの美味しさにメイン料理への期待をさらに膨らませながら、首を長くして待った。

あっという間に食べ終わり、もう出ようかという雰囲気になったとき、花火のような蝋燭の刺さったデザートが、ハッピーバースデー と私の前に置かれた。おめでとうございます!と店員さんと友達から拍手が送られ、店内のお客さんも送ってくれた。この日は誕生日の翌日。全く予想しなかったサプライズに、驚きと喜びで心が一杯になった。

 

 

余韻に浸りながら帰宅し、12時を回った頃、ベットに寝転び、その日撮った写真をグループラインで送り合った。鳴り止まない通知音に耳を塞ぎながら、携帯をサイレントモードにする。少し目を離しただけで何十件もの通知が溜まるほど沢山送られてきた写真の中には、サプライズに驚いて間抜けに口を開ける私の写真もあった。カメラロールに、それらの写真を追加する。たくさんのものが詰まったアルバムに、また新しい写真が増えた。

照明を消す前に、一回ベットから起き上がり、テーブルに置いておいたキャンドルを消した。強く吹き続けるとさらに煙は立ち昇り、吹くのをやめると途端に煙は少なくなる。かすかに残る煙の向こうの、結局被らなかったサンタの帽子と目が合った。